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なぜ新築は定借ばかりに?データでわかる不動産市場と賢い購入術

なぜ新築は定借ばかりに?データでわかる不動産市場と賢い購入術

資産形成

作成日:2025/10/16 07:10 / 更新日:2025/10/16 08:10

1. 「新築は定借ばかりになる」は本当か?データで見る市場の実態

近年、SNS上などで「これからの新築マンションは定期借地権付き物件ばかりになる」という情報が散見されるようになりました。都心部を中心に、土地の所有権がないマンションの供給が増加するというこの噂は、不動産購入を検討する人々にとって大きな関心事です。本章では、この情報の信憑性について、公的なデータを基に冷静に分析し、市場で実際に何が起きているのかを明らかにしていきます。

1-1. 噂の発端となった建築費の高騰とデベロッパーの事情

噂の背景には、マンション開発の根幹を揺るがす深刻な建築費の高騰という問題が存在しています。資材価格の上昇や建設業界の人手不足が重なり、マンションの建築コストは過去に例を見ないレベルで上昇を続けているのが現状です。この事実は、公的な統計データによっても明確に裏付けられており、決して個人の感覚的なものではありません。

一般財団法人建設物価調査会が毎月公表している「建設費指数」は、その動向を客観的に示しています。この指数は、2015年を基準値100として建設費の変動を表すものですが、鉄筋コンクリート(RC)造の住宅に限定した指数を見ると、2024年4月時点で133.5という高い水準に達しています。特に2021年頃からの上昇カーブは非常に急であり、わずか数年で建築コストが大幅に増加したことが分かります。

(出展:一般財団法人 建設物価調査会「建設費指数」)

このような状況下で、不動産デベロッパーは事業の採算性を確保するために厳しい経営判断を迫られます。建築費というコストを圧縮することが困難である以上、事業費のもう一つの大きな要素である用地の取得費用をいかに抑えるかが、プロジェクトを成立させるための鍵となります。そこで注目されるのが、土地を所有するのではなく、一定期間借りることで開発を行う「定期借地権」という手法なのです。

土地の購入費用が不要となる定期借地権を活用すれば、デベロッパーは総事業費を大幅に圧縮できます。その結果、高騰する建築費を吸収しつつ、購入者が手の届く範囲の販売価格でマンションを供給することが可能になります。つまり、建築費の高騰が続く限り、デベロッパーが事業採算性の観点から定期借地権付きマンションの供給を選択することは、極めて合理的な経営戦略と言えるのです。

1-2. 定期借地権マンションは実際に増加しているという事実

デベロッパーの経営戦略が定期借地権の活用に向かっているという仮説は、実際の供給データによっても裏付けられています。新築マンション市場の動向を調査している株式会社不動産経済研究所のレポートは、首都圏における定期借地権付きマンションの供給が著しく増加している実態を明らかにしています。

同研究所が発表した「首都圏マンション市場動向」の2023年版のまとめによると、この年に首都圏で供給された新築マンション全28,632戸のうち、定期借地権付き物件は5,011戸に上りました。これは供給戸数全体の17.4%を占める割合であり、前年である2022年の2,698戸(全体の9.6%)と比較して、戸数・割合ともに大きく伸長していることが分かります。この17.4%という数字は、過去10年間で最も高い比率です。

(出展:株式会社不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向 2023年のまとめ」)

特にこの傾向は、地価が非常に高い東京都心部や湾岸エリアなどで顕著に見られます。これらのエリアで所有権の土地を取得してマンションを分譲する場合、販売価格は一般の購入者層が購入できる水準をはるかに超えてしまうケースが少なくありません。そこで、土地の仕入れコストを抑えられる定期借地権方式を採用することで、立地の良い場所に、比較的現実的な価格の住まいを供給するという動きが活発化しているのです。

これらの客観的なデータから、「今後、定期借地権付きの新築マンションが増えていく」という情報は、単なる噂ではなく、現在の不動産市場で起きている事実を的確に捉えたものであると結論付けられます。

2. 所有権とは何が違う?定期借地権マンションの基礎知識

定期借地権付きマンションの増加という市場動向を理解した上で、次に重要となるのが、その仕組みや特性を正確に把握することです。所有権マンションとの違いを正しく知らなければ、メリットとデメリットを比較検討することもできません。本章では、定期借地権という権利の基本的な内容や、所有権との決定的な違い、そしてそれに伴って発生する特有の費用について解説します。

2-1. 土地の権利を持たないということの本当の意味

所有権マンションと定期借地権付きマンションの最も大きな違いは、その名の通り「土地の所有権」の有無にあります。所有権マンションを購入した場合、購入者は建物の専有部分の所有権に加えて、敷地全体の土地の所有権を全戸で共有する「敷地権」も取得します。これにより、土地と建物の両方が自身の資産となり、売却や相続も自由に行うことが可能です。

一方、定期借地権付きマンションの場合は、建物の所有権は取得できますが、土地は地主から借りている状態です。購入者が得る権利は、契約期間内に限ってその土地を利用できる「借地権」のみであり、土地の所有権は最後まで地主が持ち続けます。この仕組みにより、購入者は土地の購入費用を負担する必要がなく、同等の立地にある所有権マンションと比較して2割から3割程度安い価格で住戸を取得できるというメリットが生まれます。

しかし、この権利には「期間の定め」という重要な制約があります。マンションで主に用いられる「一般定期借地権」の契約期間は50年以上に設定されますが、この期間が満了すると、借地権は完全に消滅します。そして、借地人は建物を解体撤去し、土地を更地にして地主に返還する義務を負います。つまり、永続的な資産にはならず、あくまでも期間限定の住まいであるという点が、所有権との決定的な違いです。

2-2. 購入後に発生する特有の費用(地代・解体準備金)

定期借地権付きマンションでは、所有権マンションにはない特有の費用が毎月発生します。これらを理解しておくことは、長期的な資金計画を立てる上で非常に重要です。主に「地代」と「解体準備金」の二つが挙げられ、これらは通常の管理費や修繕積立金とは別に支払う必要があります。

まず「地代」とは、土地を借りるための賃料にあたる費用です。マンションの全戸で土地を借りているため、各戸の専有面積に応じて按分された金額を毎月地主に支払います。地代の金額は物件によって様々ですが、周辺の地価などを基に設定されます。注意すべきは、この地代が将来にわたって固定とは限らない点です。契約内容によっては、数年ごとに地価の変動や物価の上昇などを理由に見直され、値上がりするリスクもあります。

次に「解体準備金」は、借地権の期間が満了した際に必要となる建物の解体費用を、入居者が居住している期間中に少しずつ積み立てていくためのお金です。これも管理費などと同様に毎月徴収されます。将来必ず発生する費用に備えるための合理的な仕組みですが、これも所有権マンションにはない負担です。積立額が将来の解体費用に対して十分であるか、管理組合が適切に資金を管理しているかといった点も確認すべきポイントとなります。

これらの特有の費用を考慮すると、定期借地権付きマンションは購入時の価格は安いものの、月々のランニングコストは所有権マンションよりも高くなる傾向があることを理解しておく必要があります。

3. 定期借地権マンションとの賢い付き合い方

定期借地権付きマンションの供給増加は、購入検討者にとって選択肢が広がる一方で、新たな判断基準が求められることを意味します。価格の安さだけに目を奪われることなく、その特性を深く理解し、自身のライフプランと照らし合わせることが、後悔しないための賢い付き合い方です。本章では、メリットを活かせるケースや注意すべきリスク、そして将来の出口戦略について具体的に解説します。

3-1. メリットを享受できるのはどんな人か

定期借地権付きマンションの最大のメリットである「価格の安さ」と「立地の良さ」を最大限に活かせるのは、住まいに対する考え方が「所有」よりも「利用」に重きを置いている人です。永続的な資産として子孫に残すことを目的とせず、特定の期間、特定の場所での快適な生活を求める場合に、この選択肢は非常に合理的となります。

例えば、子育て世代が「子供が独立するまでの約20年間、通勤や通学に便利な都心部に住みたい」と考えるケースが挙げられます。所有権マンションでは予算的に手が届かないような好立地の物件でも、定期借地権付きであれば購入できる可能性があります。子供の成長に合わせて将来的に住み替えることを前提としていれば、借地権の期間満了を過度に心配する必要もありません。

また、リタイア後のシニア層にとっても有効な選択肢となり得ます。郊外の戸建てを売却し、利便性の高い都心部のマンションに住み替える際に、残りの人生設計と借地権の残存期間が合致していれば問題ありません。相続させる資産を考慮する必要がない場合や、管理の行き届いたマンションで身軽な生活を送りたいというニーズに、定期借地権付きマンションはうまく応えることができます。

このように、ライフステージにおける一定期間の「暮らしの質」を優先し、住み替えを前提とした柔軟なライフプランを持つ人にとって、定期借地権付きマンションは非常に魅力的な選択肢となるのです。

3-2. 購入前に理解すべきデメリットとリスク

メリットがある一方で、定期借地権付きマンションには慎重に検討すべきデメリットとリスクも存在します。これらを事前に理解し、許容できるかどうかを判断することが不可欠です。最も注意すべき点は、資産価値の目減りが所有権マンションに比べて早いということです。

所有権マンションの資産価値は、主に土地の価格に大きく左右されますが、定期借地権付きマンションにはその土地の権利がありません。価値の源泉は「残された期間、その建物を利用できる権利」にあるため、時間の経過とともに残存期間が短くなるにつれて、資産価値は確実にゼロに向かって下落していきます。特に、住宅ローンの一般的な返済期間である35年を残存期間が下回ると、次の購入者がローンを組みにくくなるため、売却が著しく困難になる可能性があります。

また、住宅ローンの審査自体が所有権物件に比べて厳しくなる傾向があることもリスクの一つです。金融機関は物件の担保価値を重視しますが、前述の通り定期借地権付き物件は価値が下落していくため、担保評価が低くなりがちです。その結果、借入可能額が少なくなったり、金利の優遇が受けられなかったり、そもそも融資を断られたりするケースも想定されます。

さらに、地代の値上がりリスクや、管理組合の運営がうまくいかずに解体準備金の積立が不足するといった、所有権マンションにはない特有のリスクも存在します。これらのリスクを十分に認識し、自身の資金計画や将来設計と照らし合わせて慎重に判断する必要があります。

3-3. 将来を見据えた出口戦略の重要性

定期借地権付きマンションの購入を検討する上で、最も重要と言えるのが「出口戦略」を明確に描いておくことです。つまり、その物件をいつ、どのように手放すのかを、購入する時点である程度計画しておく必要があります。期間満了まで住み続けるのか、それとも途中で売却するのかによって、物件選びの基準も大きく変わってきます。

期間満了まで住み続けることを選択する場合は、自身の年齢と借地権の残存期間を照らし合わせ、最後まで安心して暮らせるかどうかを判断します。また、期間満了後の住まいの確保や、建物の解体・明け渡しがスムーズに進むかどうかも考慮に入れておくべきです。

一方、将来的に売却することを前提とするならば、よりシビアな視点が求められます。何年後に売却する計画なのかを具体的に想定し、その時点で買い手が見つかりやすい条件を備えているかを見極める必要があります。例えば、売却予定の時点で借地権の残存期間が35年以上残っていることは、次の購入者が住宅ローンを利用するための重要な要素となります。

また、そのエリアの中古市場で、定期借地権付き物件がどの程度の価格で、どれくらいの期間で売買されているのかを事前に調査しておくことも有効です。流動性が低いエリアの物件を選んでしまうと、いざ売却したい時に買い手が見つからず、想定外に安い価格で手放さざるを得ない状況に陥るリスクがあります。購入時の価格だけでなく、将来の売却までを見据えた長期的な視点で物件を評価することが、賢い選択に繋がります。

4. よくある質問(Q&A)

定期借地権付きマンションは、まだ馴染みが薄いと感じる方も多く、様々な疑問が寄せられます。ここでは、購入を検討する際によくある質問とその回答をまとめました。

4-1. 定期借地権マンションは住宅ローンを組めますか?

はい、多くの金融機関で住宅ローンの利用は可能です。しかし、所有権マンションと比較すると、審査の基準が厳しくなる傾向があります。金融機関は融資の際に物件の担保価値を重視しますが、定期借地権付きマンションは残存期間の減少とともに価値が下がるため、担保評価が低く見積もられがちです。

その結果、借入期間が借地権の残存期間内に制限されたり、借入可能額が希望額に届かなかったりする場合があります。ただし、デベロッパーが金融機関と提携して提供する「提携ローン」が用意されている新築物件も多く、その場合は比較的スムーズに審査が進むことが期待できます。中古物件を検討する際は、複数の金融機関に相談し、融資条件を確認することが重要です。

4-2. 地代が将来値上がりするリスクはありますか?

はい、地代が将来的に値上がりするリスクは存在します。地代の改定に関するルールは、地主とデベロッパー(管理組合)との間で結ばれる借地契約によって定められています。契約内容には、「3年ごとに協議の上、改定する」や「固定資産税の増減に応じて改定する」といった条項が盛り込まれているのが一般的です。

購入を検討する際には、必ず重要事項説明書などで地代の改定条件を確認してください。周辺の地価や物価が将来的に上昇した場合、それに伴って地代が引き上げられる可能性は十分に考えられます。長期的な資金計画を立てる上では、一定の値上がりを想定しておくことが賢明です。

4-3. 期間満了後はどうなってしまうのですか?

借地契約の期間が満了すると、借地権は消滅し、土地の利用権は完全に失われます。借地借家法では、借地人は建物を収去(解体)して土地を更地の状態にし、地主に返還する義務を負うと定められています。

そのため、マンションの区分所有者で構成される管理組合が主体となり、解体業者を選定して建物の解体工事を行います。その費用は、居住期間中に毎月積み立ててきた「解体準備金」から支払われます。解体・明け渡しが完了した時点で、そのマンションに関する全ての権利と義務が終了し、居住者は退去することになります。期間満了後の住まいは、別途自分で確保する必要があります。

5. まとめ

「新築マンションは定期借地権付きばかりになる」という情報は、建築費の高騰と都心部の地価上昇という市場背景を考えると、決して誇張ではなく、今後の不動産市場の大きな流れを示唆する現実的な見通しです。実際にデータを見ても、その供給割合は年々増加しており、購入検討者にとって無視できない選択肢となりつつあります。

定期借地権付きマンションは、土地の所有権がない代わりに、好立地の物件を比較的安価に購入できるという明確なメリットがあります。特定の期間だけ質の高い住環境を求めるなど、ライフプランによっては非常に合理的な選択となり得ます。住まいを「所有する資産」ではなく「利用するサービス」と捉えるならば、その価値は大きいと言えるでしょう。

しかしその一方で、資産価値が時間と共に確実に減少していくこと、住宅ローンの制約、地代や解体準備金といった特有の費用負担など、必ず理解しておくべきデメリットやリスクも存在します。これらの特性を十分に理解せず、価格の安さだけで安易に判断することは、将来的な後悔に繋がりかねません。

重要なのは、自身のライフプランや価値観と、定期借地権という仕組みが合致しているかを見極めることです。永続的な資産形成を望むのか、それとも期間限定の利便性を優先するのか。購入を検討する際は、目先の価格だけでなく、売却や期間満了時までを見据えた「出口戦略」を明確にし、所有権マンションとも比較しながら、総合的かつ冷静に判断することが求められます。

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