
長期金利17年半ぶり高水準。マイホーム購入計画、今すぐ見直すべき?
作成日:2025/11/17 14:11 / 更新日:2025/11/17 14:11
1. 長期金利の急騰、約17年半ぶりの高水準へ
1-1. 東京債券市場で記録された歴史的な金利水準
週明け17日の東京債券市場において、長期金利の代表的な指標である新発10年物国債の流通利回りが一時1.720%まで上昇しました。これは2008年6月以来、約17年半ぶりの高い水準であり、日本の金融市場が新たな局面に入ったことを示唆しています。これまで日本銀行は長年にわたり金融緩和政策を維持し、低金利環境が常態化していましたが、その状況が大きく変化しつつあります。今回の金利上昇は、債券価格の下落を意味しており、市場参加者が将来の金利上昇を強く意識していることの表れです。
日本の金融政策は、2013年から始まった「異次元の金融緩和」により、長期金利を低位に安定させることを目的としてきました。特に2016年にはマイナス金利政策を導入し、さらに長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)によって10年物国債の利回りをゼロ%程度に誘導する政策が続けられてきました。この超低金利政策は、企業の資金調達コストを下げ、個人の住宅ローン金利を低く抑えることで経済を活性化させる狙いがありました。しかし、世界的なインフレの波や国内の物価上昇を受け、日本銀行も2024年3月にマイナス金利政策を解除し、金融政策の正常化へ向けて舵を切り始めました。
今回の長期金利1.720%という水準は、こうした金融政策の転換期において、市場が将来のさらなる金利上昇を織り込み始めた結果と分析できます。金融緩和の時代が終わりを告げ、金利が存在する「金利ある世界」へと移行する過程で発生した、象徴的な出来事と位置づけられるでしょう。この金利水準は、過去の金融引き締め局面と比較しても注目すべきレベルであり、企業活動や個人の資産形成、そして不動産市場を含む経済全体に広範な影響を及ぼすことが予想されます。
1-2. 金利上昇の背景にある財政政策への市場の懸念
今回の長期金利上昇の直接的な引き金として、高市内閣が掲げる拡張的な財政政策に対する市場の懸念が挙げられています。読売新聞は、この政策が財政悪化につながるとの懸念から国債が売られ、結果として金利が上昇していると報じています。拡張的な財政政策とは、一般的に政府支出の拡大や大規模な減税を通じて、経済の活性化を図る政策を指します。これにより景気が刺激される効果が期待される一方で、財源を国債の追加発行に頼る場合、財政規律の緩みが懸念されます。
市場が財政悪化を懸念する理由は、国債の信認低下にあります。政府が国債を大量に発行すると、市場に出回る国債の量が増加し、需給バランスが崩れて国債価格が下落する圧力となります。国債の価格と利回りは逆の相関関係にあるため、価格が下落すると利回りは上昇します。さらに、財政赤字が恒常的に拡大すれば、将来的な国の返済能力に対する信頼が揺らぎ、投資家はより高い利回りを求めないと国債を保有しなくなります。これが「財政への懸念による国債売り」のメカニズムです。
また、国内要因だけでなく、世界的な金融環境の変化も日本の長期金利に影響を与えています。米国をはじめとする主要国の中央銀行は、歴史的なインフレを抑制するために急速な利上げを実施してきました。これにより、海外の金利水準が大幅に上昇したため、日本の国債利回りが相対的に低く見え、海外投資家からの資金が流出しやすい地合いが続いていました。こうした外部環境からの金利上昇圧力に、国内の財政政策への懸念という新たな要因が加わったことで、長期金利の上昇に拍車がかかったと分析できます。
出展: 読売新聞「長期金利17年半ぶり高水準、1・720%…高市内閣の財政政策を懸念し国債が売られる」
https://news.yahoo.co.jp/articles/71ba948535bbf611f568700556e9f7fd1beb50ba
2. 長期金利と不動産市況の密接な相関関係
2-1. 住宅ローン金利、特に固定金利への直接的な波及
長期金利の上昇は、不動産市況に多大な影響を及ぼしますが、その最も直接的な経路は住宅ローン金利への波及です。特に、全期間固定金利型や一定期間固定金利型の住宅ローンは、長期金利の動向と強く連動する性質を持っています。金融機関は、住宅ローンのような長期の貸し出しを行う際、その原資として市場から資金を調達します。その際の調達コストの基準となるのが長期金利であり、主に10年物国債の利回りが参考にされます。
金融機関は、この長期金利に自社の運営経費や利益などの「スプレッド(上乗せ幅)」を加えて、最終的な住宅ローンの固定金利を決定します。したがって、長期金利が上昇すれば、金融機関の調達コストも増加するため、それを貸出金利に転嫁せざるを得なくなります。実際に、長期金利が上昇傾向を示すと、多くの金融機関は翌月以降に適用する固定金利を引き上げる動きを見せます。今回の約17年半ぶりとなる長期金利の高騰は、今後の住宅ローン固定金利が大幅に引き上げられる可能性を強く示唆するものです。
一方で、変動金利型の住宅ローンは、日本銀行の政策金利に連動する短期プライムレートを基準に金利が決定されます。そのため、長期金利が上昇しても、ただちに変動金利が引き上げられるわけではありません。しかし、長期金利の上昇が将来的な金融引き締め、すなわち政策金利の引き上げ観測を強める要因となることは事実です。市場が日銀の利上げを織り込み始めると、変動金利を選択している借り手にとっても、将来の金利上昇リスクをより現実的なものとして捉える必要が出てきます。
2-2. 購入能力の低下がもたらす不動産需要の減退
住宅ローン金利の上昇は、住宅購入を検討している人々の「購入能力(アフォーダビリティ)」を直接的に低下させます。購入能力とは、個人の年収や自己資金に対して、どの程度の価格の不動産を購入できるかを示す指標です。住宅ローンの金利が上がると、同じ借入額でも月々の返済額や総返済額が増加します。多くの金融機関では、年収に占める年間返済額の割合である「返済負担率」に上限を設けて融資審査を行っているため、金利が上昇すると同じ年収でも借入可能な金額が減少してしまいます。
例えば、これまで5,000万円の借り入れが可能だった人でも、金利が上昇したことで借入可能額が4,500万円に減少するといった事態が発生します。これにより、購入希望者は予算の見直しを迫られ、希望していた物件の購入を諦めたり、より価格の安い物件を探したり、あるいは住宅購入そのものを見送るという判断に至るケースが増加します。このような動きが市場全体で広がると、住宅に対する実需が減少し、不動産市況全体を冷え込ませる大きな要因となります。
また、不動産投資の観点からも金利上昇はマイナスに作用します。不動産投資家は、物件の収益性を示す「利回り」と、金融機関からの「借入金利」の差額(イールドギャップ)を収益源の一つとしています。金利が上昇すると、このイールドギャップが縮小し、投資採算性が悪化します。収益性が低下すれば、投資家は積極的に物件を購入しようとはしなくなり、投資需要もまた減退します。このように、実需と投資需要の両面から需要が減少することで、不動産価格には下落圧力がかかることになります。
3. 住宅購入検討者が直面する家計への影響
3-1. 金利上昇による住宅ローン返済額のシミュレーション
長期金利の上昇が住宅ローン金利に反映された場合、家計にどの程度のインパクトを与えるのかを具体的な数値で確認します。ここでは、借入額5,000万円、返済期間35年、元利均等返済という条件で、金利が変動した場合の月々の返済額と総返済額を比較します。このシミュレーションにより、わずかな金利差が長期的に見て大きな負担増につながることが明確になります。
まず、金利が1.5%の場合を基準とします。この条件では、月々の返済額は約153,000円となり、35年間の総返済額は約6,427万円です。このうち、利息の支払額は約1,427万円となります。これは、近年の低金利環境下では一般的な返済額のイメージに近いものと言えるでしょう。
次に、金利が0.5%上昇し、2.0%になった場合を想定します。月々の返済額は約165,000円となり、基準の1.5%の場合と比較して毎月約12,000円の負担増です。年間に換算すると約144,000円の増加となります。そして、総返済額は約6,946万円に膨らみ、利息支払額は約1,946万円と、500万円以上も増加することがわかります。
さらに、金利が2.5%まで上昇したケースを考えます。この場合、月々の返済額は約178,000円に達し、1.5%の時と比べて毎月25,000円も負担が増えます。年間の負担増は約30万円にもなります。総返済額は実に約7,482万円となり、利息支払額は約2,482万円にまで達します。基準とした金利1.5%の場合と比較して、支払う利息の総額が1,000万円以上も増える計算となり、金利上昇のインパクトの大きさが理解できます。このように、金利の上昇は月々のキャッシュフローを圧迫するだけでなく、生涯にわたる支出を大幅に増加させる要因となるのです。
3-2. 必須となる資金計画と物件選びの戦略見直し
金利上昇局面において住宅購入を成功させるためには、これまで以上に綿密な資金計画と戦略的な物件選びが不可欠となります。まず最優先で取り組むべきは、自身の借入可能額と無理のない返済計画を再評価することです。将来的な金利上昇リスクも考慮に入れ、現在の収入だけでなく、将来の収入増や支出減の見通しも含めて、余裕を持った資金計画を立てることが重要です。特に、頭金の割合を増やすことは有効な対策の一つです。自己資金を多く投入することで借入額を圧縮でき、金利上昇の影響を直接的に軽減することが可能になります。
物件選びの視点も見直す必要があります。予算が制約される中で、希望する条件をすべて満たす物件を見つけることは困難になるかもしれません。その場合、エリア、広さ、築年数、駅からの距離など、条件に優先順位をつけ、どこかで妥協点を見出すという冷静な判断が求められます。例えば、都心や駅近の新築物件にこだわらず、少し郊外の中古物件も視野に入れることで、予算内でより条件の良い物件に出会える可能性が広がります。リノベーションを前提に割安な中古物件を購入するという選択も、有力な戦略となり得るでしょう。
住宅ローンの金利タイプの選択も、これまで以上に慎重な判断が求められます。金利上昇が確実視される局面では、将来の金利変動リスクを回避できる全期間固定金利の人気が高まる傾向にあります。一方で、当初の金利が低い変動金利を選び、金利が低いうちに積極的に繰り上げ返済を進めて元本を減らすという戦略も考えられます。どちらのタイプが最適かは、個々のリスク許容度やライフプランによって異なります。金融機関の担当者やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、自身の状況に最も適した選択をすることが賢明です。
4. 不動産投資市場で起こりうる構造変化
4-1. 投資用ローンの厳格化と資金調達環境の悪化
長期金利の上昇は、個人の住宅ローンだけでなく、不動産投資家が利用する投資用不動産ローン(アパートローンなど)の環境にも大きな変化をもたらします。金利が上昇する局面では、景気の先行き不透明感が高まり、借入人の返済能力が悪化するリスクが増大します。金融機関はこうした貸し倒れリスクを警戒し、融資に対する姿勢をより慎重なものへと変化させるのが一般的です。具体的には、融資審査の基準が引き上げられ、これまでよりも厳格な審査が行われるようになります。
融資審査の厳格化は、様々な形で現れます。例えば、投資家の自己資金比率の引き上げが求められるケースが増えます。以前は物件価格の1割程度の自己資金で融資が受けられたものが、2割、3割とより多くの自己資金を要求されるようになります。また、融資期間が短縮されたり、個人の属性(年収、勤務先、金融資産など)に対する評価基準が厳しくなったりすることも考えられます。これにより、特に自己資金の少ない新規の投資家や、複数の物件を所有する投資家が、新たな融資を受けて物件を購入することが以前よりも格段に難しくなります。
このように、資金調達のハードルが上がることは、不動産投資市場全体の流動性を低下させる要因となります。物件を購入したい投資家がいても、融資がつかなければ取引は成立しません。買い手が見つかりにくくなると、売却を希望する所有者は価格を下げざるを得なくなり、これが不動産価格全体への下落圧力として作用します。低金利を背景とした積極的な融資によって拡大してきた近年の不動産投資市場は、金利上昇という逆風を受け、その構造が大きく変化する転換点を迎える可能性があります。
4-2. 期待利回りの上昇が促す不動産価格の調整
不動産投資において、物件価格を決定する上で極めて重要な指標となるのが「キャップレート(還元利回り)」です。キャップレートとは、対象不動産が一年間に生み出すと期待される純収益(家賃収入から経費を差し引いたもの)を、不動産価格で割った数値です。逆に言えば、「不動産価格 = 年間純収益 ÷ キャップレート」という式が成り立ち、キャップレートが上昇すれば不動産価格は下落し、キャップレートが低下すれば不動産価格は上昇するという関係にあります。
このキャップレートは、投資家がその不動産に要求する「期待利回り」を反映したものであり、その水準は安全資産である国債の利回りと密接に関連しています。国債は元本割れのリスクが極めて低い安全資産と見なされており、その利回り(長期金利)はあらゆる投資の基準となります。不動産投資は、空室リスクや家賃下落リスク、災害リスクなどを伴うため、投資家は国債の利回りにある程度のリスクプレミアムを上乗せした利回りを求めます。
長期金利が上昇するということは、リスクの低い国債に投資するだけで得られるリターンが増えることを意味します。そうなると、投資家はわざわざリスクを取って不動産に投資するからには、これまでよりも高い利回りを要求するようになります。つまり、キャップレートに上昇圧力がかかるのです。例えば、これまでキャップレート4%で取引されていた物件でも、長期金利の上昇後は、投資家が5%の利回りを求めなければ採算が合わないと判断するかもしれません。この場合、同じ家賃収入の物件であれば、価格は計算上20%下落することになります。このように、長期金利の上昇はキャップレートの上昇を通じて、不動産価格の理論値を直接的に押し下げる強力な要因となるのです。
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